こんにちは。
ローカルをオウエンする旅人 佐藤翔平(@tempurubato_yh)です。
空き家や空き店舗をリノベーション(改修・改装)し、ゲストハウスやカフェにする事例が日本各地で増えてきています。
日本各地を旅する生活のなかで体感してきたリノベーション。
ローカル&ソーシャルな取り組みとして、地方で対峙することが多かったリノベーションですが、僕の地元【金沢区】でも面白い場づくりが始まっていました。
国定有形文化財 金沢園
かつての金沢園(現 旅館喜多屋)がある場所、横浜市金沢区は僕の生まれ育った地元です。ここ喜多屋の最寄り駅は京浜急行線【金沢文庫】駅。称名寺と海の公園(平潟湾)の間に位置します。
称名寺(しょうみょうじ)は、鎌倉時代に北条実時が建立したとされる金沢北条氏の菩提寺。平潟湾(ひらかたわん)は、鎌倉時代には外港として、江戸時代以降は景勝地・避暑地として栄えた場所です。
この町の地理的な歴史もさることながら、金沢園という建物にも様々な所以が残されています。
金沢園の歴史
当初金沢園は遊園地、割烹旅館として、潮干狩りや海水浴、又貸しボート、釣堀、遊覧船といった海の楽しみ、又四季折々の花を鑑賞できる遊園地や大弓場などのスポーツ施設と、まさに横浜金沢の観光拠点となり、当時のレジャー施設と発展しました。
与謝野晶子が歌会を、高浜虚子が日本探勝会を開いていた場所でもあり、『旗亭』(泊まれる料亭)というスタイルで100年もの間 営業されていました。
2016年2月まで営業
1916年に創業された金沢園は、つい最近 2016年の2月まで料亭として営業をしていました。
「聞いたことはあるけど、場所はよく知らない。」
「一回は行ったことがあるような気がするけど、でもよく覚えていない。」
「営業しているかどうか分からない。」
地元の人間に金沢園について聞くと、たいていこんなリアクションが返ってくると思います。少なからず僕の周りではそうでした。認知度はそれなりにあるけど、馴染みのある場所ではない。
実際かつての金沢園は、一見さんお断りのような格式の高さがあり、地元の一般庶民が出入りする場所というよりは、重役接待、または冠婚葬祭で使われるような場所でした。
地元民に愛されていないわけではないけど、自分ごとで考えられるような親近感はない…そんな印象があります。
『時代・世代の変化を考えると、金沢園という建物をこのままの状態で活かし続けるのは難しい』
…用途や顧客が比較的限定されていたこともあり、100年を節目に大きく方向転換を図ったのは、そんな判断があったからなのだと思います。
文化財の宿 旅館 喜多屋
そんなときに白羽の矢が立ったのが、僕より5つほど先輩の喜多正顕 さんでした。
喜多さんは元々、横浜市でインバウンド事業やシェアハウス事業などをされてきた方で、当初「海外の人に来てもらえるような、インバウンドを意識した場所にしたい。」という要望を受けていたそうです。
考え抜いた結果、新たにコンセプトを設定しつつも、『旗亭』(泊まれる料亭)という元来的な要素を残した宿を提案しました。また同時に、地元の人が気軽に来れるような余白を持たせる場所を目指したそうです。
開業資金の一部を募ったクラウドファンディングでは、目標額を大きく上回り5,000,000円近くの資金調達を成功させた。
荒井聖輝さんと出逢い
話を少し戻すと 喜多さんとの出逢いは、荒井聖輝さん(僕の一つ上の先輩)という、横浜のキーパーソンの一人が繋いでくれた御縁がきっかけでした。
荒井さんの話はまた別記事で紹介できればと思いますが、横浜駅近くの高台にある古いアパートをリノベーションして蘇らせ、畑付きシェアアパートメントとして運営しながら、町づくりに関わる様々なことをしています。
荒井さんとは都内のイベントで知り合ったのですが、喜多さんのことは存じ上げておらず、金沢園のリノベーションもSNSで流れてくるまで知りませんでした。
僕の地元が横浜市金沢区だということや、『ソーシャル・ゲストハウス・コミュニティ』などのワードにも通じていたこともあり、SNSを通じて僕と喜多さんを繋いで下さりました。
喜多屋 旅館 リノベーション現場
本年2月まで営業していた場所を改修し、6月までに宿泊施設に変えていく… そんな計画でスタートしたリノベーションプロジェクトでしたが、国定有形文化財という縛りがネックになり前途多難だったようです。
旅館業の許認可を取得いたしました。
かねてより準備して参りました旅館業の許認可を12月20日づけで所得することが出来ました。
横浜市でも前例のない築80年以上で登録有形文化財である建物の旅館業の申請でしたので、耐震基準の設定や施工方法の確認など一つ一つの申請に時間と手間がかかり当初の予定よりはかなり遅れてしまいましたが、ようやくスタートラインに立つことができました。
Cafe&Dining部門と別営業になっているので、カフェの方は予定通りスタート出来たようですが、ゲストハウス部分は大幅に遅れての営業になったそう。(それだけ努力と試行錯誤を繰り返して実現した宿なのだ。)
現地で比較してほしい写真
僕がはじめに伺ったのは2016年の4月。クラウドファンディング、リノベーションが動き出して間もない時期でした。
今となっては大変貴重な、もう観ることのできないリノベーション中の写真をご紹介していきます。
(当時) 外観・ファサード
出来る限りもとの魅力を活かす…ということでリノベーションを行っていたので、外観はほとんど元のまま。
建物からにじみ出る気品や風格、歴史を回想してしまいます。
(当時) 厨房スペース
最も大きく変わったであろう部分は飲食スペース。元々大きな厨房だったところが、ランチ&ディナーを提供するレストラン Cafe&Diningぼたん に生まれ変わりました。
元々あった貴重な皿や器は、今現在も提供時に使用しているそう。
(当時) 一階廊下 洗面所
一階の廊下と男性用の洗面所はほとんどそのまま。
女性用の洗面所は新しく作り直しています。(陶器の洗面ボウルがオシャレかつ風情があって素敵なので、是非観てほしいです。)
(当時) 脱衣所・浴室
僕が最も食いついたのが、この浴室。
一つの大浴場に間仕切りを入れ、男女2つの浴室になりました。床や壁は基本的に全面改装。しかしながら、富士山から運んできた岩(現在では法律的に無理)や壁面のモザイク画、色鮮やかなガラス格子や職人によって考案された天井の換気システムは当時のまま。脱衣所もかなりキレイになっていました。
(当時) 二階階段・廊下
金沢園として営業していた最後の数年間は、ほとんど2階は使っていなかったそうで、物置部屋のようになっていました。(使っていない家具が廊下に出され、行く道を塞いでいた。)
(当時) 一階客室・二階客室
客室の間取りについては是非HPを通じて確認して頂けたらと思いますが、部屋にある古美術品はそのまま、当時の雰囲気が息づくような部屋作りをされていて、今では再現不可能であろう貴重な窓ガラス細工なども解説と共に残されています。(文化財の宿というのはこういうことか。)
(当時) 景観・ビュー
2階からの眺めがとても良い。
初年度の春はリノベーション中だったので、会社の人たちと二階でお花見をしていました。窓を開けていると桜の花びらが入ってくる。(飲み会に混ぜてもらった際の写真。夏は花火大会、秋は紅葉も良い感じらしい。)
Cafe&Diningぼたん
現在のCafe&Diningぼたん
Cafe&Diningぼたんには、もう何度かランチタイムで伺っているのですが、この写真は初めて伺ったときのものです。(喜多さんに横浜名物の『牛鍋コース』をご馳走になってしまった時の写真)
同郷である旅の友人ノムくんを喜多さんに紹介し、リノベーションを終えてから初の内覧をお願いしました。(その後ノムくんは、少しの間ここで働くことになった。)
ランチはデザートつきで 1,500円から。
食材にもこだわりのある月替わり(3種類から選べる)ランチ御膳が、とても美味しいので超おすすめです。ここでは割愛するので、詳しくはHPをご覧ください。
※基本的に宿泊客以外は、Cafe&Diningぼたんのみの利用になるので、洗面スペースと一階の飲食スペースのみしか立ち入れないが、混雑していないタイミングであれば、宿スタッフに取り次いでもらえるかもしれません。
視察時の投稿
2016年に視察をさせて頂いた際の、リアルタイムな投稿も合わせて紹介します。(その時の感情や想いなども書いています。)
価値を守る
例えそれが資産価値の高い文化財であっても、社会情勢や遺産相続、世代交代など様々な要因のなかで、維持や活用が難しくなり、負の資産にもなりかねない。いかに価値を守り活用していくのか…もっと議論の対象になっていいと思いました。
今回のような、文化財をリノベーションして宿泊施設にする事例は一般的にまだ珍しいと思うので、同じようなことを検討されている方がもしいれば、是非一度喜多さんに相談をしてみてください。
(僕も橋渡しします。)
おわりに
2017年 GW 新潟 長岡市の友人が来てくれた時の写真
最後に、宿情報と関連先のリンクを紹介して終わりにします。
Facebookページなどをみて頂ければと思いますが、宿はインバウンド客を中心になかなかの賑わいをみせています。またCMやTVのロケ地としても使われているようです。
都内からも比較的近く、金沢文庫駅から歩けない距離でもないので、機会があれば是非訪れてみてくださいね。
施設
建物は東京・品川にあった明治期の建築とされる木造二階建ての日本家屋を昭和5年(1930年)に移築し、平成16年(2004年)に国登録有形文化財に登録されました。
昭和初期には作家の与謝野晶子が当時の様子を執筆したり、俳人の高浜虚子が日本探勝会を開催したことで知られ、近年は予約制の「料亭 金沢園」として主に冠婚葬祭で利用されていました。
コンセプト ボーダーレス・レガシー
「旅館 喜多屋」(KITAYA Ryokan)はおよそ築100年以上と推定される国登録有形文化財です。
かつて、横浜(現在の桜木町)で営業していた料亭の満月(創業大正5年)を前身とし昭和5年に開園した旗亭「金沢園」を、新たに現行法規にて再生そして保存と活用をしていきたいとの思いからスタートしたプロジェクトです。
ここはかつて、与謝野晶子が歌会を、高浜虚子が日本探勝会を開いた建物で、私たちはそんな歴史を感じられる空間で、「宿泊」「食事」、そしてなにより日本文化と外国文化の交差点となるそんな出会いを生じさせたいと思っています。
再生した「旅館 喜多屋」は、そんな本来持っている日本の古き良さと新しいボーダーレスな体験の共有をみなさんとしていきます。
関連情報リンク
電話番号045-789-0071
駐車場駐車場有 4台まで
満車の場合は金沢文庫駅方面の道沿い にコインパーキングもございますので そちらをご利用ください。 こちらは提携駐車場ではありません のでご了承ください。)
文化財の宿 旅館喜多屋 / 空室検索 -じゃらん.net
こんな気持ちになった…
何年か旅をしていてアイデンティティって何だ?って思うことが増えたけど、やはり僕はここの人間なんだなということを実感する。
自分の町についての記事を書くとき何処か胸の奥が震える感じがあって、今も半ベソになりながら作業してる。
誇らしさなのか、地域への還元なのか、得体の知れない想い。
— 佐藤翔平 / 移動する生き方 (@temporubato_yh) 2017年12月22日
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様々な町へ出て、様々な町の記事や投稿をしてきたけど、やはり自分のホームグラウンドのことになると感慨もひとしおであり、なんともいえない想いが込み上げて泣きそうになった。
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ブログタイトルにある『微住』とは、「移住・定住」と「旅での滞在」の間にあるような、「旅するように暮らす」「暮らすように旅する」をバッグ一つで実現する、前向きな仮暮らし的生活スタイルであり、地域と繋がるソーシャルアクションのことです。
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